【Purple Flair開発秘話】AIで実現するアダプティブラーニング。開発陣が追求した“本物”の学習体験とは
保要 隆明(ほよう たかあき) |
富永 大智(とみなが だいち) |
栗原 樹(くりはら たつき) |
株式会社エヌ・エフ・ラボラトリーズ(以下、NFLabs.)では、研修事業やセキュリティ診断事業だけでなく、プロダクト開発にも注力しています。その筆頭が、実践型サイバーセキュリティ学習システム『Purple Flair(パープルフレア)』。AIによる高度な学習支援機能を備えたこのプロダクトは、日本のセキュリティ研修のあり方を変えるために生み出されました。
開発チームを牽引するのは、なんと若手エンジニア。そこに経験豊富なアーキテクトと、コンテンツの生みの親であるシニアエンジニアが加わり開発を進めています。今回は、そんな開発の中核を担った3名に、プロダクト開発の苦労とPurple Flairにこめたこだわりを語ってもらいました。
場所と時間の制約を超える。「手触りのある」学習を届けたい
——まずは、このプロジェクトが立ち上がった経緯について教えてください。
保要:きっかけは、NFLabs.がこれまで提供してきた「研修事業」の課題を解決したいという思いからでした。私たちの研修は非常に質が高いと自負していますが、従来提供していた対面型の研修だとどうしても「特定の場所・時間に集まらないと受けられない」という物理的な制約がつきまといます。
この壁を取り払い、より多くの人に私たちのセキュリティ技術を届けるにはどうすればいいか。そこで構想したのが、Webブラウザ上で完結する実践型サイバーセキュリティ学習システム『Purple Flair』です。
——開発にあたって、特にこだわったコンセプトはありますか?
保要:「動画を見るだけの受動的な学習にしないこと」です。これは私の原体験に基づいています。学生時代、講義を聞くだけではなかなかスキルが身につかなかったのですが、あるきっかけで実際に手を動かして検証し始めた瞬間、スキルの習得スピードが劇的に跳ね上がったのです。
セキュリティ技術の習得には、「手を動かすこと」が重要です。だからこそ、Purple Flairはハンズオン形式であることに徹底してこだわりました。ボタン一つで専用の検証環境が立ち上がり、実際にコマンドを打って攻撃・防御を試行錯誤できる。そんな環境を、誰でも手軽に構築できる仕組みを目指しました。
——開発が始まった当時の市場・社会背景としては、どのような状況だったのでしょうか。
保要: 海外には類似のサービスがありましたが、日本語で、かつ日本企業の手厚いサポート付きで深く学べる環境は不足していました。そして当時は、ちょうどコロナ禍でオンライン学習の需要が高まっていた時期。「国産の最強プラットフォームを作るなら今しかない」と考え、プロジェクトが本格化しました。

新卒がスクラムマスター、ベテランが支える。「心理的安全性」のあるチーム
——開発チームはどのような体制で動いているのでしょうか。
栗原: 時期にもよりますが、だいたい5〜6名の少数精鋭チームです。私はスクラムマスターとしてアジャイル開発におけるタスク管理や調整、ファシリテーションを担当しています。
——富永さんは前職でプロダクト開発の経験がありますが、Purple Flairの開発においてはどのように関わっているのでしょうか?
富永: 栗原さんは若手とは思えない動きをしてくれているので、私が細かく指示することはあまりないですね(笑)。私の役割は、アーキテクトとして技術的な「引き出し」や「観点」を提供することです。
例えば、栗原さんが考えてきた設計に対して、「もしユーザー数が1万人に増えたら、この構成だとどうなるかな?」とか「他の大規模サービスでは、こういう構成をとることが一般的だよ」といった視点の提示を行います。私の過去の失敗や成功体験を材料として渡すことで、彼自身が最適解にたどり着けるようサポートしています。

栗原: 富永さんの存在は本当に大きいです。「世の中にないもの」を作る過程では、自分の知識だけでは太刀打ちできない壁に何度も直面します。でも、そこに富永さんのような「引き出しの多い先輩」がいてくれることで、安心して高いハードルに挑戦できる。「心理的安全性」が高いチームだと感じますね。
——チーム内での意見の衝突などはありますか?
栗原: 技術選定や設計方針で意見が割れることはもちろんあります。でも、そこで人間関係がギスギスすることはありません。なぜなら、全員が「個人のエゴ」ではなく、「プロダクトにとって何がベストか」という視点で議論しているためです。
「自分が正しい」ではなく、「この目的を達成するためには、A案とB案どちらが合理的か」という建設的な議論ができる。職歴や年齢に関係なく意見を戦かわせることができるこのカルチャーは、NFLabs.の大きな強みだと思います。
Purple Flairの独自性が生まれるまで
——開発において、最も苦労した点はどこでしたか?
栗原: 間違いなく、特許を取得している「3大機能=AIによるアダプティブラーニング」の実装ですね。これが最大の山場でした。
初期の『Purple Flair』は、環境構築の手軽さこそありましたが、競合サービスに対する決定的なキラーコンテンツや独自性に欠けていたんです。そこで「AIを使って学習者のスキルを可視化しよう」という話になったんですが……。
富永: 当初は要件が定まっておらず、かなり抽象的な状態でしたよね。「AIを活用して評価する」という方向性はありましたが、具体的に何をどう評価するのかが決まっていなくて。
保要: 頭の中では「これがあれば絶対に良いものになる」というイメージはあったのですが、いざ取り組むと技術的なハードルが想像以上に高かった。理想を現実に落とし込むまでは、チーム全員での大きな挑戦でした。
——その抽象的な要件を、どのように具体的な仕様に落とし込んでいったのですか?
栗原: 言葉だけで議論していても、メンバーそれぞれのイメージが異なり、なかなか前に進みませんでした。そこで、「完成度は低くてもいいから、PoCを実施しよう」と決めたんです。
実際に動くプロトタイプをステークホルダーに触ってもらうことで、「ここはイメージ通り」「ここは違う」といった具体的なフィードバックが得られました。現物を前に認識をすり合わせることで、アジャイルに仕様を固めていくことができました。
——完成した機能について、技術的な独自性を詳しく教えてください。
栗原:最大の特徴は、単なる正誤判定ではなく「プロセス評価」を行っている点です。ユーザーが検証環境で入力したコマンドの履歴や通信ログなどをAIが解析し、「熟練のセキュリティエンジニアと同じような試行錯誤をしているか」「無駄のない手順か」といった観点で判定します。
保要: 答えが合っているかだけでなく、「どう解いたか」まで見る。これが特許取得につながった『Purple Flair』の心臓部ですね。
栗原: この高度な判定を実現できたのは、NFLabs.に蓄積された「攻撃・防御の暗黙知」があったからです。「熟練の思考プロセスはログにはこのように表れる」「このスキャンが成功しているならスキルがある」といった、NFLabs.の講師やトップエンジニアたちのノウハウを学習データとして注入しました。技術力がある会社だからこそ実現できた、非常に高精度な評価システムだと自負しています。

紫を目指し、進化を続ける。日本のセキュリティを底上げする
——最後に、Purple Flairが目指しているもの、プロダクトの今後の展望について教えてください。
保要: 『Purple Flair』の名が示す通り、紫(Purple)は攻撃(Red)と防御(Blue)が混ざり合った色です。現在は攻撃寄りのコンテンツの割合が少し多くなっていますが、今後は攻守両面からバランスよく深く学べるプラットフォームへと進化させていきます。そして企業だけでなく、大学などの教育機関にも広げ、日本のセキュリティレベルの底上げに貢献したいですね。
富永: セキュリティの学習は、どうしても孤独でつまずきやすいものです。だからこそ、使うほどに「学びやすく」なる環境を届けたい。利用者が増えることで蓄積される知見は、AIが「人がどこで悩むか」を深く理解するために使われます。そうすることで、ユーザーが壁にぶつかった際、これまで以上に的確なアドバイスで背中を押せるようになるんです。プロダクトの進化が、そのままユーザーの皆さんの成長スピードを加速させる。そんな、人とシステムが共に高め合える「成長のループ」を実現したいと考えています。
栗原: そうですね。今後は初心者から熟練者まで、より幅広い層のユーザーに使ってもらい、そのフィードバックを基にプロダクトを磨き上げていきたいと考えています。ただ、言われた通りに作るだけではありません。私たち開発者自身も「こうすればもっと面白くなる」という意志を持ち続け、ユーザーの声と自分たちの技術的なアイデア、その両輪で『Purple Flair』を進化させていきます。